福岡県柳川市にあるエネルギー事業を主軸に、リフォーム、自動車整備、家事代行、保険まで地域の生活をサポートする事業を営んでいる会社の本社建て替え計画。
敷地は矢部川流域の氾濫平野に位置し、周辺には畑や水路が広がる。前面の国道拡幅工事に伴い、既存の本社位置からセットバックする形で建て替えることになった。
施主は、創業時から地域のお役にたちたいという想いで営まれており、敷地内で定期的なイベントの実施や地域の困り事から新規事業を創設するなど、積極的な地域との関わりを持ち、そこがこの会社の魅力であると感じた。
計画地にはガソリンスタンド、本社、ショールーム、倉庫、ガスタンク庫、駐車場などの既存施設が混在しており、それらの機能を維持したまま国道の拡幅工事に合わせての順次移転を念頭に入れた機能整理が必要であった。
地盤の悪さと水害の恐れもあることから、杭基礎+鉄骨造地上2階建てとし、BCP対策として執務室の大半は2階へ配置した。
1階は大半を地域へと開放したスペースとしつつ、スラブを半層ずらして配置することで、視線が抜け、各スペースが孤立せず緩やかに連続するようにしている。基本はグリッドに沿った合理的な平面形状としつつも、道路に並行な斜めのラインを入れることで、不成形なテラスや窓際のたまりを作り出し、空間に良い斑を作り出している。
1Fは地域開放スペース(ヒラクラウンジ)とムービングボックス(商談ブースやイベント時のポップアップショップとして使用)、角材を積み上げたベンチなど様々な居方を可能にする。天井が半層ズレたスラブのため、高天井のエントランスラウンジは外部的な仕上げにより、内外の連続性を高め、より地域の方を招きやすい雰囲気づくりをしている。2階は執務が中心であるが、テラスには多様な緑とアウトドアキッチンを設け、窓際のベンチスペースは休憩スペースとし、働く環境を整えつつ天井の高いフリーアドレスデスクエリアを中心に会議室、小上がり、集中ブース、ボックス席、スタンディングカウンターが同じスラブ上に連なり、多様なワークスタイルの実現をしている。
本社が完成し、この1年半後に敷地南側にガソリンスタンドが、さらに1年後に国道側に駐車場と私設公園ができる予定である。公園には登下校時の子供が遊べるような場所や、休憩できる東屋も設置したいと考えている。ガソリンスタンド(ガスステーション)のように大きな屋根が連続する建物群は、エリアを一つの集落のように全体性を形成し、地域にとっての交流の場(ライフステーション)になることを構想している。
多様な居場所を持つ本社の使い方にしても、エリア全体の活用方法にしてもまだまだ可能性を模索中であるが、従業員と地域の方々、お客様、みんなで「育てていくオフィス」は今後、地域にとっての大切な場所になっていくはずである。
■設計
設計・監理 : PEAKSTUDIO + to-ripple
構造設計 : コウゾウケイカクロナンナン
設備設計 : NoMaDoS
サイン計画 : MARUYAMA DESIGN
植栽 : 平川和歌子+久冨造園
施工 : 大藪組
家具工事 : セブンスコード,シルヴァン
■掲載